「問われる現場の透明化(2006年1月18日号)
▼耐震偽装問題は、とりわけマンション住人の不安をかきたてているようだ。不正に設計されたものが、堂々と建築されてしまう業界の現状、さらには大手建設会社の物件ですら決して安心できないことを世間に公表してしまった。会社のブランドも当てにならないようでは、消費者は何を信じて良いか分からない。マンション問題の無料相談を行っているNPO集合住宅改善センター(田村哲夫代表)にも電話やメールで多くの問い合わせが入っている。その中に、このような話があった。電鉄系の大手ディベロッパーが販売している物件(施工は中堅ゼネコン)を予約した人が、担当の営業マンに構造計算書と構造図を見せてくれと頼んだら、「見せられないが、安全性に問題はない」の一点張り。その対応の悪さに不安になり、解約を検討しているという。確かにこれらの書類は素人が見て理解できるものではない。しかし、なんらかのかたちで安全性の根拠を示し、購入予定者を安心させるのが売り主の義務ではないか。今の法律では、これらの書類は、完成後に管理組合に引き渡せば良いことになっている。だが、完成前の段階であっても、情報公開ができないものだろうか。
失われた信頼は回復できるか 危機を追い風にしよう(2006年2月18日号)
▼1月17日に開かれたある新年会の席上、当日のヒューザー社長の証人喚問とライブドア社の事件が話題になった。ライブドア社の事件について、来賓の1人は、「米国のエンロン事件と同じではないか」と指摘した。粉飾決算が発覚し、2001年に倒産したエンロン社は、創業からわずか15年で売上高全米7位にまで成長し、米国で最も革新的な企業とされていた。そのような花形企業が史上最大の負債をかかえて破たんしたものだから、米国経済と社会に与えたショックは計り知れない。規模こそ違うが、米国で起こったことを数年遅れで再現しているようにみえるのは、日本が米国流の規制緩和と市場主義を後追いしているためだろう。ただ、米国では経済犯罪への制裁はすさまじい。やはり同様な不正会計で破たんしたワールドコムのCEOは禁固25年という厳しい判決を受けた。また、エンロン事件でもライブドア社と同様、Eメールが証拠として押収されたが、その150万通ものメールは、ウェブ上でさらし者のように公開されている。果たして今後、日本ではどのような方向に進展していくのか。
塗装業の春はまだまだ遠い 実態調査結果が示すもの (2006年3月18日号)
▼日塗装の実態調査報告によると、96(平成8)年度をピークに、下がり続ける一方であった会員の年間完成工事額は、昨年度ようやく上昇に転じた。実に9年ぶりの増加である。だが、これで本当に塗装業界の景気は底入れしたといえるのだろうか。売上高の増大は利益を伴っているのだろうか。同時に発表された技能者(直用工)の実態調査結果では、大いに気になる変化がみられる。それは、前年度に比べて直用工の数が大きく減っていることだ。04年度に2万8406人いた直用工は、05年度調査では2万2210人と、22%も減少している。とりわけ東京で26%、大阪で42%も減っているのが目立つ。完成工事額は東京、大阪とも増えているのに、技能者が減っているのはどういうことか。同会の調査では利益に関する項目はないが、工事単価の下落が常用工の雇用を維持できないレベルにまで達したか、あるいは意図的に外注に切り替えていったのだろう。工事量は少し増えても、「利益無き繁忙」に終始した結果ではないか。
職人の再直用化は可能か 大阪府建団連の試み(2006年4月18日号)
▼「このままではやがて職人がいなくなってしまう」―こうした危機意識から、大阪府建団連の北浦会長らは学識者と連携して、技能者の入職や育成の方法をさぐっていた。ここ数年の労務単価の下落があまりにも急激だったからである。新築工事が減少する中で、常軌を逸した価格競争が、元請け各社の間で繰り広げられた。そのしわ寄せは下請けに集中し、職人の生活を直撃した。職人は低賃金に甘んじるか、転職するしかない。優秀な職人がどんどん去り、新しく入職する人が減ってきた。そのような時期に、建設労働法の一部が改正され、条件つきで技能者の送り出しができることになった。建団連でも当初は「他の業種と同様の規制緩和が進むのか」と危機感を募らせたが、あくまでもこの法律改正の趣旨は「建設労働者の雇用の安定と技能の継承」にある。そこで建団連では、新しい制度を利用して、業界団体の内部で職人の貸し借りを行うビジネスモデルの研究に乗り出した。建団連傘下の近畿建設躯体工業協同組合の有志で研究会をつくり、建設業振興基金の新分野進出モデル事業にも採択された。
注目されるマンション改修市場 現場代理人の「人間力」がカギに(2006年5月18日号)
▼いま全国のマンションストックは、戸数で500万戸、棟数で12万棟を超えたようだ。その維持には、10〜15年に1度の大規模修繕が必要になる。正確な統計はないが、仮に1戸当たりの修繕積立金の平均を月1万円とすると、毎年6000億円もの資金がプールされる。この資金が工事以外の用途に使われることはなく、マンションストックの増大とともに修繕(改修)市場は確実に拡大していくことになる。工事業者の選定は、最近では小さなマンションでも公募で行う傾向にある。業者選定の過程をガラス張りにしておかないと、後々なにかと問題が起こるからだ。設計・監理も、多少高くついても専門家を起用する方が安心なため、建築士などのコンサルタントに依頼するケースが増えている。
普及・啓発事業の発展を(2006年6月18日号)
▼日本塗料協会が解散し、前身の日本塗料倶楽部設立以来、半世紀以上にもわたる歴史に幕を閉じた(3面)。実は、「日本塗料協会」という団体の解散は、戦後2度目である。最初の団体は昭和22年、製販装が一体となって結成されたが、わずか1年でGHQの閉鎖機関令により解散させられている。団体の財産は問答無用で接収されたが、同時並行で進めていた塗料会館建設事業はかろうじて難を逃れた。その後、閉鎖機関令に触れないよう、日塗工、日塗商、日塗装の3団体に分かれて発足。親睦団体として日本塗料倶楽部が設立され、東西の塗料会館建設と運営事業を行うことになった。倶楽部が塗料普及事業を担うようになったのは、製販装3団体で運営されていた日本塗料普及会の事業を継承してからである。普及会は、朝鮮戦争直後の不況対策として、日塗工内に設立された塗料普及啓蒙委員会がルーツで、昭和27年に独立した組織となり、主に家庭用塗料の需要開発を目的に活動していた。それが昭和63年、倶楽部への移管を機会に、塗料・塗装全般の普及・啓発へと範囲を広げることになった。これに伴い平成5年、「倶楽部」から「協会」へと名称を変更している。
効果的なダンピング対策を 下請へのしわ寄せを許すな(2006年7月18日号)
▼大手ゼネコン各社が昨年末、談合からの決別を宣言して以来、落札率が急落し、ダンピング受注が続発している。国交省の低入札価格調査によると、全契約件数に占める調査件数の割合は、04年度の492件(全契約件数の4%)から、05年度は928件(同8%)へと倍増した。とりわけ年度末の2〜3月はひどく、大手ゼネコンのダム工事で予定価格の50%を割り込む案件まで現れた。従来の半分の価格でできるダムとは、いったいどんなダムなのか。よほどの技術革新がなされない限り、無理な受注は赤字工事に直結していく。元請けが赤字を全部引き受けるならともかく、下請けへのしわ寄せを前提にした受注戦略は大問題だ。下請けへの指し値発注、労働条件の悪化、職人の賃金下落…こうした負の連鎖は下請けを苦しめるだけでなく、必然的に工事品質の低下を招く。発注者も納税者も誤解してはいけない。値段が半額になっても、耐用年数が半分以下になれば、結局高い買い物なのだ。国交省の調査結果(05年度一般土木工事対象)でも、低入札工事の工事成績評点平均値は、標準工事の70・7点に対し67・6点と低く、落札率が低いほど工事成績評定点が低くなる傾向がはっきり示されている。
業界のデフレ脱却はいつか(2006年8月18日号)
▼内閣府の発表によると、景気拡大期間はすでにバブル期を上回り、このまま11月まで続くと、戦後最長の「いざなぎ景気」をも越えるという。だが、到底同じ国の話とは思えないのが、業界の実感だろう。昭和40年から45年まで57か月続いた「いざなぎ景気」では、GDPの名目成長率が毎年2桁で推移していた。平均で10%も成長すれば、ほとんどの産業が恩恵に与れる。それに対し、昨年の成長率は実質で3%、名目で1・7%に過ぎない。実質より名目が低いのは、もちろんデフレの影響である。これだけ微々たる成長で、戦後最長の景気拡大などといえるのだろうか。好調なのは輸出関連産業や大企業だけで、大半の中小企業は、依然続くデフレの中で、もがき苦しんでいるのが実情だ。
避けて通れない石綿対策(2006年9月18日号)
▼10月1日から施行される改正建築基準法では、石綿を含む建材を使った建築物がすべて「既存不適格」となり、増改築時にその除去が義務づけられる。ただし、増改築部分が総延べ床面積の2分の1に満たない場合は、増改築部分のみ石綿を除去すればよく、他の部分は封じ込めや囲い込みで対応することも認められる。作業者の資格も、除去の場合だと、1.石綿作業主任者 2.特別管理産業廃棄物管理責任者 3.石綿使用建築物等解体業務特別教育受講者―の3つが必要だが、封じ込めや囲い込みなら、1と3の資格だけで作業ができる。一方、9月1日から改正された石綿障害予防規則では、吹き付けられた石綿の封じ込め・囲い込みの作業についても、除去作業に準じた措置が義務づけられ、建築物に吹き付けられた石綿などが損傷、劣化により粉じんを発散させ、労働者がばく露するおそれがあるときは、労働者に呼吸用保護具及び保護衣または作業衣を使用させなければならない。
「建設ものづくり」の危機 技能の継承が喫緊の課題に(2006年10月18日号)
▼「親方ばかりが多くて職人が少ない」―ここ数年、建設業全般にみられる傾向だが、塗装業は特に顕著だ。近年の許可業者数は右肩上がりで増え続けており、1996年(2万9580業者)から10年後の06年(4万4975業者)まで、実に5割以上も増加している。半面、就業者数は減少傾向にあり、01年(10万559人)から04年(8万7754人)にかけて1割以上減っている(国交省・施行統計調査)。就業者数が減少したのは、完成工事高が減っている影響だと理解できるが、不可解なのは許可業者数の増加だろう。28許可業種中、05〜06年の増加率が高いのは熱絶縁(4・8%)、防水(3・7%)、ガラス(3・4%)、鉄筋(2・1%)などで、塗装(1・4%)は上から8番目である。このうち、鉄筋を除けば、「リニューアル」「環境」というキーワードがみえてきそうだ。
拡大する石綿処理ビジネス 環境・健康への配慮が課題(2006年11月18日号)
▼石綿対策に関する法改正がほぼ終わり、労働安全衛生法、石綿障害予防規則、大気汚染防止法、廃棄物処理法、建築基準法などによる本格的な規制が始まった。改正された労働安全衛生法では、一部の例外製品を除き、石綿を重量比で0・1%以上含むすべての物の製造や使用が禁止された。例外製品とは、代替品がない化学プラントのガスケットや潜水艦のパッキン、ミサイルの断熱材などで、一般社会の中では事実上の全面禁止である。また、石綿障害予防規則では、除去作業をする場合の労働基準監督署への事前届出、作業者の健康保護、定期的な健康診断などが義務づけられ、作業者や近隣への安全衛生対策が強化されている。さらに今年10月から施行された改正建築基準法では、石綿を含む建材を使った建築を増改築する際に、その除去が義務づけられた。こうして従来建材などに大量に使われてきた石綿製品は一切禁止され、建物の建て替えや増改築時に偶然発見されれば除去する必要があり、その除去方法から廃棄まで厳しく規制されることになったのである。