■「塗料需要動向と課題への取り組み」 〜大平和彦(日本塗料工業会専務理事)
塗料生産は4年ぶり増加
塗料の需要動向ということで、現在どのような状況に差しかかっていて、将来どのような方向へいくんだというのを、集めた資料を元にお話します。
まず、塗料工業会の塗料生産数量と出荷台数金額で、平成12年度は4年ぶりにプラスの1%となりました。97、98、99と伸び悩んでいたわけですが、今回はかろうじてということです。204万8千d、金額にして7277億円が塗料工業会の実力であったということが言えます。この3連敗の後の極めて引き分けに近い1勝ですが、これがどのような流れで起こったのかというのを、振り返ってみたいと思います。
塗料出荷数量の12ヶ月移動平均に着目してみます。12ヶ月の移動平均というのはつまり、前年度と比べて上か下かというのを結果的に現したもので、カーブが上り坂の場合は、前年度より上がっているということで。12ヶ月の平均ですから。現在は、前年度より下がっているという状態です。昨年の5月を除いて、今年の5月を入れた時点で1年間の数量を平均するということですから、前年度比がこれで現れるということです。塗料の出荷量というのは月ごとに激しく動くのですが、このように12ヶ月平均となると、カーブがなめらかになる。したがって、大きな流れを見るには優れた方法で、これは10年前からデータを取り始めております。
いくつかの特徴があると思いますが、2000年の4月、2001年の3月、この間の動きが204万8千dの7277億円だったわけです。 この資料を見てみますと、過去に3回波があったわけで、下がり始めて立ち上がるまで、このケースでは1年かかっています。その次の波も、立ち直るのに1年かかっています。その次は2年かかっています。今までの2倍かかっていると言えます。これは確実なものではないですが、一旦下降曲線を取り始めれば、1年はかかるだろうというのが自然な流れであろうと。今回も11月、12月から下降しはじめたわけですが、そういう意味では楽しみが少ない、ずるずると下がっていくであろうことが懸念されております。
業況は悪化の傾向に
業況判断指数は今回、はじめてお目にかける資料ですが、塗料工業会が業界の35社にお願いして、次の一月、前年の同年に比べて、物が売れるとか、売れないとか、といったアンケートを書いていただいております。去年の6月から今年の5月まで、「良い」とした会社の数から「悪い」とした会社の数をひいて、全体の35社で割って百をかけたという計算をしたものです。景気の判断指数なんですが。それぞれの会社の、それぞれのメーカーさんの生産形態といったものを現したようなものですから、実感として状況を表すならこんな感じでいいのではないかと思いました。
世の中の景気全般がどのようになっているのかというのは別に概要を示しています。
経済産業省の調査課というものがありまして、そこに実績を報告し、そこがまとめてデータの解析をしています。6月時点では景気は「悪化しつつある」と報告されていました。これが7月の時点では、「悪化している」。さらに「悪化が進んでいる」となりました。
【資料】
▼総論:わが国経済の基調判断 ○景気は悪化しつつある ○個人消費は、おおむね横ばいの状態が続いているものの、足元で弱い動きが見られる。失業率は高水準で推移している。
○輸出、生産が引き続き減少している。 ○企業収益の伸びは鈍化し、設備投資は頭打ちとなっている。 ○先行きについては、在庫の増加や設備投資の弱含みの兆しなど、懸念すべき点が見られる。
▼各論1 消費・投資などの需要動向。 ○個人消費は、おおむね横ばいの状態が続いているものの、足元で弱いう具機が見られる。 ○設備投資は、頭内となっている。産業別にみると、製造業は堅調に増加しているものの、非製造業では弱含んでいる。
○住宅建設は、弱含みとなっている。 ○公共投資は総じて低調に推移している。 ○輸出・輸入は、ともに減少している。貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。
▼各論2 企業活動と雇用情勢 ○生産は、引き続き減少する中で、在庫が増加している。 ○企業収益は、これまでの重い伸びが鈍化している。 また、企業の業況判断は、製造業を中心に急速に悪化している。倒産件数はやや高い水準となっている。
雇用情勢は、依然として厳しい。完全失業率が高水準で推移し、求人や残業時間も弱含んでいる。
▼各論3 物価と金融情勢 ○国内卸売物価、消費者物価は、ともに弱含んでいる。 ○金融情勢については、短期金利は、年明け以降、日銀による金融緩和措置等を受けて、低下傾向で推移している。
▼各論4 海外経済 ○アメリカの景気は、弱い状態となっている。アジアでは景気の拡大テンポは鈍化している。 アメリカのITバブルの崩壊をもって景気も景気後退局面に入り、日本もその影響を受けているといえます。
政府の経済財政諮問会議、は、いわゆる「骨太の方針」を決議しました。今度の「経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」だとかそういう形で決議しましたけれども、その他に不良債権の債権処理、財政構造の改革と経済財政の構造改革を目指す内容を明らかにしたものがこれです。
これに対して改革の方針が明らかにされたからいいんではないかという、そういう方向、見解を示すと、基本的には構造改革というのは、緊縮政策であり、回復への明確な道しるべが見えないといったあたりの懸念が論じられております。
政局的な効果というのは、多少影響されるのですが、アメリカの動向からより影響を受けます。IT関連事業を中心に需要が減少し、企業収益が悪化することから、潜在成長率を下回る低成長に落ち込んだ、というのがアメリカの動向です。見通しは下げる方向になってきています。アジアの韓国・台湾・香港・シンガポールそれぞれGDPが低迷しています。ロシア・フィリピンでもそれぞれ低いんですね。唯一の例外が中国でして、3・8%ぐらいまで上昇しております。
建築需要も低迷
「新築住宅着工戸数」と「大手50社の建築工事受注額」「マンションの供給個数」をご紹介したいと思います。 「新築住宅着工戸数」ですけれども、2000年まで、全体としてはプラスとなっております。2000年の新築住宅着工数は121万3200戸、3月までの話ですけれども、前年度比のマイナス1・1%であったわけです。
住宅減税の政策効果は出つくして、2001年度分を先取りした、そういう形が出ていると言われております。
国土交通省が今年の5月29日に発表した内容ですけれども、今年の5月の新築着工戸数は、10万550戸となり、前年同月比では、5・2%の減、5ヶ月連続の減少となりました。用途別でみると、賃貸・分譲・戸建を含む住宅は、ともに増加となったものの、持ち家が減少している。マンション・戸建住宅ともに増加して全体で、前年同月比、全体で6・0%増の2万8千887戸と、先月の減少から再び増加に転じている。5月の持ち家は、前年同月比14・0%減の3万3千766戸で、連続の減少となった。公庫融資による住宅が減少したため、全体では減少となっている。少し、減少側にあるといった方が強いと言えるわけです。
次に、「大手50社の建築工事受注額」ですけれども、これは2000年度、これは14兆9680億円ということで99年に比べマイナス6・6%です。これも国土交通省の2001年6月29日の発表ですけれども、5月の建設工事受注統計によると、受注額は、前年度比17・9%の減で7ヶ月連続の減少となっています。
大手の建設会社の受注額は減少しているということです。 建設工事は前年同月比の31・8%減の1826億円と再び減少に転じたほか、民間工事についても、同じく15・9%減の4860億円と9ヶ月連続で減少したため、国内全体では17・8%減の7144億円と、6ヶ月連続の減少となりました。
マンション供給は、2000年度は3万8348戸プラス6・0%、これは2年連続増になりました。首都圏は7・1%で、3年連続プラスということとなります。
これから首都圏のマンションが売れるのかというアンケートが取られておるんですけれども、首都圏の供給戸数については、やや減少すると、減少すると書かれた人が多くなっています。
あと、これからの不動産市況に多少影響するかも知れないニュースがありました。国土交通省が11年ぶりに不動産を申告制で評価をしなおすという、そして市場を活性化する、マンションの評価の基準を変更するという記事がありました。
副資材産業から脱皮へ
塗料は工業製品製造業、建築・建設業、公共投資需要に対し、副資材提供産業として重要な役割りを果たしつつ発展してきました。
しかし、モノの需要が伸び悩む成熟社会になるとともに、グローバル化(海外生産の進行)の時代になると、塗料需要の伸びは大幅には期待できなくなりました。
このため、今後は従来の副資材産業から脱皮し、塗料の働き(機能)そのものを事業化する、総合的なコーティング事業への転換が求められています。
その1つは、環境・安全・健康への配慮を基軸として、省資源、ストックの長寿命化、色彩文化を創出する市場創造型工業への方向です。 また、もう1つは、ハイテクを導入して高付加価値機能を付与するスペシャリティーケミカル工業へ転換し、グローバルに需要を創造することです。
当面の課題として@収益性の改善A新市場の創造B環境問題への対応C基盤技術開発の強化D国際的競合時代への対応Eデジタル化社会への対応――が挙げられます。これには業界全体の競争力の強化、市場対応力の強化が必要でしょう。
EDIで効率化 これを受けて、「IT基盤の整備」を図り、取り引きの電子化からスタートすることにしました。大手企業は独自にシステム化を進めていますが、このまま放置すると、多端末現象や大手企業による新系列化が起こり、全体として非効率な業界となり、業界全体が顧客対応力を失うことにもなりかねません。
日塗工と日塗商が進めている「塗料業界EDI」は、業界共通の電子商取引を実現するものです。今年10月からはメーカー側はイサム塗料、大阪塗料工業、ナトコの3社、ディーラー側からは奥村塗料、加藤塗料、石山塗料、川崎塗料店、アック、北川塗料の6社が参加して実証実験を行い、来年から本格稼動に入ります。稼動1年後にはメーカー10社・ディーラー50社、2年後にはメーカー20社、ディーラー300社、3年後にはメーカー60社、ディーラー1000社の運用を見込んでいます。
環境問題に関しては、日本塗料工業会は、「コーティング・ケア」を塗料業界に適用し、製品開発から清造、物流、使用、消費、廃棄に至るすべての過程における環境・安全・健康保全の自主的活動を行って参ります。
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