◆日本塗装時報 2008年1月18日発行 第1864号◆
■歴史的な転換期を迎えて
国土交通大臣 冬柴 鐵三氏
 平成20年という新しい年を迎え、謹んで新春のごあいさつを申し上げます。
 昨年を振り返りますと、能登半島地震、新潟県中越沖地震などの大地震や台風等の自然災害、遊戯施設の事故などにより、多くの国民の安全・安心な暮らしが脅かされました。国民の生命・財産を守ることは国土交通省の重要な使命であり、引き続き全力で取り組んでまいります。

 一方で、我が国は、本格的な人口減少・高齢化社会の到来、急速な経済のグローバル化、地球環境問題の深刻化、環境や美しさを重視する国民の価値観の変化など、歴史的な転換期を迎えており、このような時代の潮流の変化に的確に対応して、私たちの子どもや孫たちが自信と誇りを持てるような国づくりを進めていかねばなりません。特に、「地方の再生」が国政の喫緊の課題となっております。地方の再生のためには、地方と都会とが共に支え合う「共生」の考え方に立ち、地方が自ら考え、実行できる仕組みを考えていくことが必要です。

 国土交通省は、国土政策、社会資本整備、交通政策等を総合的に推進するという幅広い任務を担っており、そのいずれもが国民生活や経済活動に密着しているものです。このため、国民の皆様の視点に立ち、国土の将来像を踏まえつつ、時代の要請にふさわしい国土交通行政を推進するため、以下に申し述べる課題に取り組んでまいります。

【自立した活力ある地域づくり】
 地方の再生のためには、アジアの成長力を取り込み、都市・産業集積を強化することを通じて、多様な広域ブロックが自立的に発展するとともに、各ブロック内において様々な地域が交流・連携しながら発展していく姿を目指すことが必要です。平成19年度中に閣議決定を予定している「国土形成計画(全国計画)」においても、広域ブロックを単位とする地方が、その有する資源を最大限活かして地域戦略を描き、自立的に発展する国土構造を目指しております。これを具体化するものとして、全国8つの広域ブロックにおいて、国と地方の協働により、「広域地方計画」を平成20年度中に策定することとしております。  地方の再生に向けては、この広域地方計画の枠組みも活用しつつ、交通ネットワークの整備など真に必要な社会資本への集中投資、地方の鉄道やバスなどの地域公共交通の活性化・再生、中心市街地の活性化や都市再生、集約型都市構造への転換の推進、観光振興などの地域の創意工夫あふれる取組への支援、地域づくりの担い手である建設業の再生などを着実に推進してまいります。一方、人口減少・高齢化の著しい地域等に対しては、官民協働の「新たな公」による地域コミュニティの再生、コミュニティバスの導入支援等による日常生活の足の確保などにより、生活者の視点に立った暮らしやすい地域を形成してまいります。

【安全・安心で豊かな社会づくり】
 我が国は、地震・津波や洪水・土砂災害・高潮が頻発するなど、自然災害に対して脆弱な国土条件にあります。また、累次の事件・事故等で大きく揺らいだ公共交通や住宅・建築物等に対する国民の信頼を回復することが求められております。これらに対応し、安全・安心基盤を確立することは、国土交通行政の最重要課題の一つと認識しております。

 自然災害に対しては、予防対策の重点化、再度災害防止の徹底、土地利用状況等の地域特性に応じた対策の実施などにより、地球温暖化等に伴う災害リスクの増大に対応した防災・減災対策を推進するとともに、住宅・建築物の耐震改修、緊急地震速報の一層の活用、道路の橋梁や空港・港湾・下水道などの耐震対策の促進、緊急災害対策派遣隊(TEC−FORCE)の創設や海上保安庁の巡視船による円滑な給水活動などによる危機管理対応の充実、強化などにより、地震対策の強化を図ってまいります。特に、緊急地震速報については、昨年10月に世界に先駆けて広く国民への提供を開始したところであり、速報を聞いた時に取るべき行動の周知徹底や利活用の促進を図ってまいります。

 住宅・建築物の安全性に関しては、昨年6月に施行された建築基準法の円滑な運用を図るため、建築確認手続の円滑化など所要の措置を引き続き図っていくとともに、定期検査資格者制度の見直し等によるエレベーター、遊戯施設等の安全性の確保に取り組んでまいります。

 公共交通等の安全と信頼の確保については、運輸事業者の経営管理部門を対象に、経営トップから現場まで一丸となった安全管理体制を評価する「運輸安全マネジメント制度」や保安監査の着実な実施と拡充・強化を図ります。また、陸・海・空の事故原因究明機能の強化・総合化を図るため「運輸安全委員会」の設置を目指すなど、全交通モードの運輸安全対策の強化を進めてまいります。

 四面環海の我が国における新たな海洋立国の実現のため、昨年成立した海洋基本法に基づき、本年度中に海洋基本計画を策定するとともに、領海及び排他的経済水域における海洋調査や大陸棚調査の推進、トン数標準税制の導入等の施策を通じた我が国外航海運事業者の国際競争条件の均衡化、日本籍船の確保、船員の育成及び確保等による安定的な海上輸送の確保、海上における治安の確保、マラッカ・シンガポール海峡の安全確保、離島の保全等の海洋政策について、政府一体となった取組を総合的かつ計画的に進めてまいります。特に海上の安全・治安の確保については、海上保安庁の老朽・旧式化した巡視船艇・航空機等の緊急かつ計画的な代替整備や「空き巡視艇ゼロ」を目指した複数クルー制の拡充など、海上保安体制の充実強化を推進してまいります。

 このほか、国際的な連携のもと、交通機関や港湾、空港などの重要施設のテロ対策の強化を図り、安全の確保や治安の維持に万全を期してまいります。
 ユニバーサル社会の実現に向けては、国民生活に最も密着した基盤である住宅について、住宅セーフティネット法の趣旨を踏まえ、高齢者、子育て世帯等の居住の安定を確保するとともに、バリアフリー新法に基づき、公共交通機関、建築物、歩行空間等の一体的・総合的なバリアフリー化を推進します。

【世界の成長と活力を我が国に取り込む基盤づくり】
 本格的な人口減少・高齢化社会を迎えつつある我が国において、持続的な成長を維持していくためには、台頭するアジアをはじめとする諸外国の成長と活力を取り込むことが必要です。そのために「アジア・ゲートウェイ構想」の実現に向けた人流・物流システムの構築、国内外からの投資を喚起する不動産市場の整備、ICTを利活用したイノベーションの推進などにより、国際競争力の強化を図ってまいります。  アジア・ゲートウェイ構想の実現に向けては、引き続きアジア各国との航空自由化に向けた交渉を進めるとともに、羽田空港については、昨年9月の上海虹橋国際旅客チャーター便就航に続き、北京南苑空港との定期的チャーター便の就航実現を図ることとしております。また、今後、関西国際空港の貨物地区整備や連絡橋料金引下げ等を通じ、関西・中部両国際空港を我が国を代表する国際拠点空港として戦略的にフル活用するとともに、羽田・成田などの大都市圏拠点空港やスーパー中枢港湾の整備、臨海部物流拠点の形成、これらと都心部等を結ぶ道路や鉄道の整備、高速道路ネットワークの効率的活用・機能強化、アジアにおける物流インフラ整備への支援、本年5月の「日中韓物流大臣会合」の開催による国際連携の強化など、ハード・ソフト両面から、迅速、円滑、低廉な人流・物流体系の実現を目指します。

 不動産市場の整備については、不動産市場データベースの構築や、官民連携による投資家に信頼される不動産投資市場の確立を図ってまいります。さらに、人口減少局面においても高い生産性を確保するため、国民生活や経済社会活動に密着する国土交通分野においてICTを最大限に利活用し、イノベーションを次々と生み出していくための環境整備を推進してまいります。

【歴史、風土等に根ざした美しい国土づくり】
 我が国には、世界に誇る歴史的資産や豊かな自然環境が数多く残されております。今後は、美しく魅力ある国土づくり・地域づくりを念頭においた社会資本整備をすすめるとともに、貴重な歴史的風致の維持向上によるまちづくりを推進し、歴史、文化等を活かした国土づくりを推進してまいります。とりわけ、再来年の平成22年(2010年)は平城京に都が置かれてちょうど1300年目にあたるため、これを記念する取組の一つとして、特別史跡平城宮跡について、平成20年度より国営公園として整備着手することとしております。

【観光交流の拡大】
 観光は21世紀の国づくりの柱です。我が国は伝統・文化・自然・歴史・産業・自然等の魅力あふれる国であり、国内外の交流を促進することが重要です。このため、昨年6月に閣議決定された観光立国推進基本計画に掲げられている訪日外国人観光客一千万人等の目標の達成に向けて、ビジット・ジャパン・キャンペーンの高度化や国際会議の開催・誘致を推進するとともに、地域における観光地づくりへの取り組みを支援するため、国際競争力の高い魅力ある観光地の整備促進事業の実施、観光統計の整備、地域における観光振興の先進事例の普及等を推進してまいります。また、国全体として、官民を挙げて取り組む体制を整備するため、観光庁の設置を目指すなど、これまで以上に観光立国の実現に向けた取組を強化してまいります。

【地球環境時代に対応したくらしづくり】
 地球温暖化問題については、我が国は、本年7月に開催される北海道洞爺湖サミットなどの場を通じて、世界をリードしていかなければならない立場にあります。国土交通省としても、本年10月の「交通分野における地球環境・エネルギーに関する大臣会合」の開催等により国際連携を強化しつつ、低公害車や燃費に優れた船舶の開発・普及、環状道路の整備、グリーン物流の推進、公共交通機関の利用促進などにより、環境にやさしい交通の実現を図るとともに、住宅・建築物の省エネ性能の向上、省CO2型都市構造を目指した都市づくりの推進、地球環境の監視・予測の強化などに取り組んでまいります。さらには世界の水問題の解決に向けた対応にも積極的に貢献してまいります。  また、多様な生物の生息・生育・繁殖の重要な基盤となっている、河川、海域などの豊かな自然環境の保全・再生を進めてまいります。

 さらに、今後はストック型社会・循環型社会への転換が求められており、住宅の寿命を延ばす「200年住宅」の推進、建設副産物のリサイクルの推進、下水汚泥等の有効利用の推進、静脈物流ネットワークの構築などを図ってまいります。

【国土交通行政の新たな展開】
 国土交通行政を展開する上では、時代情勢を見据えつつ、不断に必要な見直しを行っていくという姿勢が極めて重要です。

 公共事業については、これまでに述べたような課題に対応すべく、次期社会資本整備重点計画を策定し、引き続き事業評価の厳格な実施、コスト構造改革などの取組を進めつつ、真に必要な社会資本の整備を重点的かつ効率的に推進してまいります。また、昨年8月には米国の橋梁崩落事故がありましたが、今後、我が国でも社会資本の老朽化が進むことから、予防保全的管理への転換による社会資本の戦略的維持管理を推進してまいります。

 入札談合等の不正行為の排除の徹底を図るとともに、価格と品質が総合的に優れた公共調達を実現し、技術と経営に優れた企業が伸びることができるような環境を整備するため、一般競争入札の拡大、総合評価方式の拡充、入札ボンドの導入等の入札契約制度改革を着実に進めてまいります。

 道路特定財源につきましては、昨年12月7日の政府・与党合意に従い、関連する法案を次期通常国会に提出し、その成立を図り、必要な道路整備を計画的に進めてまいります。整備新幹線については、平成16年の政府・与党申合せに基づき着工区間の整備を着実に進めるとともに、昨年12月には政府・与党の整備新幹線検討委員会が開催されたところであり、整備新幹線に係る諸課題について、今後の与党における議論も踏まえながら、しっかり対応してまいります。また、空港の整備や運営に関する制度の抜本的見直しを図ることにより、空港利用者のさらなる利便や安全性の向上を推進してまいります。

 原油価格が史上最高水準で推移することにより、トラック運送業、内航海運業、建設業をはじめとして中小・下請け企業が極めて大きな影響を受けております。安定的な物流コストの確保等を図るための効果的な高速道路料金の引下げ、離島航路や地方のバス路線などの生活交通維持のための支援、原油価格高騰についての荷主団体に対する理解と協力要請、トラック運送業における下請・荷主適正取引推進のためのガイドラインの策定等を行うことにより、経営への悪影響を少しでも緩和できるよう、万全を期してまいります。

 以上、新しい年を迎えるにあたり、国土交通省の重要課題を申し述べました。国民の皆様のご理解をいただきながら、ご期待に応えることができるよう、諸課題に全力で取り組んでまいる所存です。  国民の皆様の一層のご支援、ご協力をお願いするとともに、新しい年が皆様方にとりまして希望に満ちた、大いなる発展の年になりますことを心より祈念いたします。
■中央環状線の整備へ
首都高速道路株式会社 代表取締役会長 長谷川 康司氏
 首都高は昨年10月で民営化2年が経過しました。この2年間は、「首都圏のひと・まち・くらしを安全・円滑な首都高速道路ネットワークで結び、豊で快適な社会の創造に貢献する」という使命に基づき、多くの事柄に全力を注いで取り組んでまいりました。

 特に昨年1年間は、初年で力を入れて作り上げた会社の土台を基礎に、料金収受業務、交通管理業務及び維持修繕業務に携わる完全子会社を設立したのを始めとして、中央環状線最後の区間である品川線トンネル工事を、総合評価方式を併用した技術提案価格交渉方式という従来にない新たな手法を用い、予定価格に対して約3割のコスト削減を達成して契約しました。また、11月には湾岸線方面から、横浜の中心地へ直接アクセスが可能となる、横浜公園出口が開通しました。  これらは将来の首都高の業務展開の方向性の一端を示すことができた良い事例ではなかったかと考えております。

 そして、首都高の渋滞解消を目指して一昨年策定・公表した「渋滞対策アクションプログラム」の中でも中心的な役割を担う中央環状新宿線4号〜5号が、先日12月22日16時にいよいよ供用を開始しました。この路線の開通により、これまで4号新宿線から都心環状線に集中していた交通経路に、中央環状線という新たな選択肢が加わり、都心を迂回するルートができたため、首都高ネットワークの機能が飛躍的に向上することとなります。

 また、お客様にご不便とご迷惑をお掛けしてきた首都高の渋滞ですが、今回の池袋・新宿間の開通でその約2割が、新宿から渋谷までの区間が開通する平成21年度末にはその半分が、そして中央環状品川線が完成する平成25年度にはほぼ全てが解消することとなります。これら中央環状線の整備や各ボトルネック解消のための改築事業など、今後の首都高の渋滞対策にご期待ください。  さて、今年の秋には首都高の料金制度が、従来の均一料金制から距離別料金へ移行する予定となっております。距離別料金への移行は、距離に応じた公平で使いやすい料金体系となるとともに、自由な経路選択、環状道路の有効利用、料金圏等の乗り継ぎの負担の軽減等がなされ、首都圏全体の有料道路をより利用しやすくなるための第1歩となります。また、同料金体系の下では、首都高と一般道との使い分けが容易になり、今後の首都高ネットワークの整備とあいまって、首都圏全体の道路の渋滞緩和が図られ、環境の改善へつながります。

 本年もお客様第一の視点を業務の基本において、サービスの向上をさらに徹底・向上してまいります。
 民営化して二年余りが経ち、長大橋やPAでの特別イルミネーションの点灯、PAを活用しての様々な催事の実施、景観向上対策など、「お客様第一」は日ごろの業務においてかなり浸透してきたのではないかと思いますが、首都高に対してのお客様のご意見はまだまだ厳しいものが多いと感じております。これはお客様の首都高へのご期待が大きいことの裏返しと受け取り、社員一人ひとりが強い自覚をもって業務に取り組むことが何よりも大切だということを認識するよう徹底してまいります。  皆様におかれましては、本年も首都高へより一層のご愛顧をいただきますとともに、お気づきの点は何なりと私どもにご教示いただけるようお願いいたします。

 最後となりましたが、皆様方のこの一年のご健勝とご多幸をお祈りしまして、年頭におきましてのご挨拶とさせていただきます。